【ジンタの開き】

「三寒四温」という言葉があります。
三日寒い日が続いた後に四日暖かい日が続く気候を表したもので、もともとは朝鮮半島などで使われていた冬の季語らしいですが、日本ではだんだん暖かくなる冬から春先にかけた様子を表す言葉として使われることが多いようです。
とはいえ、まだまだ寒い日が続き、たまに「三寒」が「大寒波」に化けたりして、「四温」を感じることができるのはもうちょっと先なのかもしれません。
(花粉症の方を除いて)みんなが待ち望む「春」を感じることができると言えば、やはり「桜」でしょうか?
一口に「桜」と言っても全国にはご当地名物「○○桜」が数多くあり、そのほとんどは「エドヒガン」種が多くを占めているようです。
一足お先に「春」を・・の方には、「河津桜」(カワヅザクラ)がおススメ!
東伊豆の河津町に咲く桜で「オオシマ桜」と「カンヒ桜」の交雑種で早咲きのため、例年2月に「河津桜まつり」が催されます。(ただし今年は天候不順のため開花が遅く3月9日まで延長するらしいです)
河津川沿いの土手約3㎞に紫紅色の大輪の花が続き、ちょっと肌寒い春一番の風に花びらが舞うさまは圧巻です!
春先の伊豆半島は各駅ごとに表情が違って楽しいですよ!

「河津駅」から伊豆急行で東京方面に4駅ほど戻ると「伊豆熱川駅」があります。
「熱川」と名の付くくらいですから、駅前に自噴泉があったりして「南国」の様子を呈しております。
観光協会の方に聞いた話ですが、以前、自称「温泉通」を名のる男性に「源泉かけ流しの宿を紹介して欲しい」と言われたので「熱川の源泉は104℃ありますのでヤケドしますよ」と説明したらすごすごと帰っていったとの事。
「熱川」とは文字通り「熱い川」の流れる町なのであります。
その証拠に各宿で使い切れない熱湯を海に流すのですが、冬の時期は流し込み口の海から湯気がモウモウと立っています。
そうすると暖かい海水につられて小魚たちが寄って来ることがあります。
たまにですが、イワシの群れが海岸に打ち上げられていることがあるそうです。
温水につられたか、イルカやクジラに追われたか、いずれにしても群れで泳ぐイワシは先頭が方向を見失うとみんな習って投身自殺?するらしいです。
こうなると海沿いのホテルの従業員の方たちはみんなバケツをもって「イワシ拾い」に専念します。イワシは魚偏に「弱」=「鰯」なのであしが早い為、その日の食卓はイワシのオンパレードになるわけです。
幸い?自分はこの珍事には遭遇していませんが、大勢の人がバケツを持ってイワシを拾う様は潮干狩りよりインパクトがあり、一度テレビ放映してほしいものです・・
その熱川での思い出です。
15年くらい前になりますが、熱川にある観光ホテルに仕事で宿泊した夜、ホテルの社長と専務の長男、観光協会の理事長と食事をした際に宴卓に並べられたのは、金目鯛やまぐろ、かんぱち、伊勢えび、カニのお造りや、お約束の金目鯛の煮つけに焼きなどなど・・
それと料理長自慢の「パイナップルの飾り彫り」(中身だけくりぬいて提灯に見立てたやつ)
まぁ目の前が海、後ろは山ですから当たり前ですけど、これでもか!っ言うくらいに海の幸のオンパレードでした。
「こんなに海の幸が豊富ですけど、社長は何が一番好きですか?」と尋ねたところ「私はジンタの開きがあれば十分です」とのこと・・
「ジンタの開き?」とは何ぞや?
長男の専務曰く「ジンタとはアジの赤ちゃん、つまり豆アジのことです。本来は小さいので丸ごと揚げて食べるのですが、たぶん地元に限ってだと思いますが、普通のアジの開きと同じように開いて一夜干しにして焼いて食べるんです。小さいサイズなので骨ごと食べられて酒のつまみには最高ですよ。まったくこんなに贅沢な海の幸があるのに、なぜか昭和生まれの酒飲みはジンタが好きなんですよねー」と見事な解説!
(ちなみに「ジンタ」(ジンコとも言う)とは、たくさんの豆アジが銀色の粒みたいなので「仁丹」からきているらしい)
さてそういう話を聞くと昭和の食指が刺激され、(金目鯛はこっちに置いといて)「できれば私もそのジンタを・・」とのリクエストに、社長が(かかったなとばかり)ニヤリと笑い「わかりました!」と意気揚々と自らが準備にかかりました。
本当に手のひらより小さい「豆アジの開き」が藁紐で10枚ずつくくってある干物を3束?と七輪を用意しました。

(下)ジンタ

部屋いっぱいにアジの焼ける香ばしい匂いが広がり、焼き上がりを長箸で小皿に取って「骨ごと食べられますのでまずはそのまま、次に七味をかけたマヨネーズにちょっと付けてみてください」との指導に言われたまま食すと、生意気なことに小さいくせにちゃんと「アジの味」が・・・
「こりゃうまい!」と感嘆の言葉!
「でしょ!でしょ!」と60歳をとうに越えた社長が子供のように喜んでいました。
「海流の関係で東伊豆は生鮮魚、西伊豆は海溝が深いので甲殻類や干物が有名ですがこんな隠れたごほうびもあるんですよ」と観光協会の理事長のありがたいご訓示。
「これ家でも食いたいですね。この開きってお土産で買えますかね?」
「あまり売っていないですね。そもそも日持ちしないし、売っても10匹で2~300円位なので商売にならないです。豆アジとしても一皿20匹くらいで同じような値段ですから、まぁ開きの加工賃が多少のっているくらいです。」
「でもそんなに気に入ってくれたのなら明日朝市場で仕入れておきますよ」と社長
「そんなー悪いですから自分も市場に行きますよ」と言うと「朝5時ですよ」と社長
「・・おまかせします・・」m(_ _)m


翌日、社長の早起きのおかげで見事に「ジンタの開き」を20枚ほどゲットして意気揚々と自宅に帰還。
昨晩の宴会での話と「ジンタの開き」現物をお土産として持ち帰り妻と娘たちに自慢したところ「そんなちっさい魚なんか食べるとこ無いじゃん!それより金目鯛や伊勢エビはどうしたの?
いっつもお父さんだけ仕事のふりして美味しいもの食べているんだから!たまにはちゃんと仕事してこい!」と、鋭いところを突きまくり状態で散々の言われようでした・・・ (;´・ω・)
なかなか男のロマンは理解してもらえないです。
ちなみに今回のお供のお酒は静岡の銘酒「磯自慢」でした。
まずは飲みやすい!変な癖がなく誰にでも受入れられそうで、名前の通り「海の幸」とはベストマッチングでした。

静岡県は横に長く、東京から見ると伊豆半島はほんの入り口、沼津、静岡、清水、掛川、浜名などの関東から中京を繋ぐ主要都市が並び、いろいろな美味しいもの美味しい酒がまだまだたくさんあります。
みなさんも是非一度ゆっくり旅してみてください。
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